意識低めで写真を撮ることについて考えよう〜その5 RAW現像はズルじゃない〜

RAW現像については、結構毛嫌いする方がいるような気がします。僕も割とそうでした。「ズル」であるとすら思っていたこともあります。ただ、いざやってみると楽しいし、フィルム時代の「現像」や「プリント」の技術を調べていくと、それは勘違いであったと感じるようになりました。

神宮外苑いちょう並木

RAW現像の楽しさについてはとりあえず今回は置いておいて、先に「自分が感じていた勘違い」について考えていきましょう。

まず、RAW現像前提で撮影していても、ピントときっちり合わせなくてはいけないし、露出も本当に適当で良いわけではなく、一定の精度が求められる、というのは勘違いしてはいけないポイントです。機械学習などを使った技術の進化で、撮影データにない階調や輪郭を作り出すことが出来る時代は、そう遠くない未来にやってきそうな気がしますが、現状では「データにないもの」はまだうまく復元できません。

自分が使っているLightroomによる現像で出来る特徴的なことのことの1つに、部分補正、色補正といったものがありますが、「覆い焼き」「焼き込み」「印画紙の号数やフィルター」といったキーワードで調べてみると、実はやってることに大して差はありません。フィルムの時代でも、「覆い焼き」「焼き込み」で部分的に露出を変えることも、「印画紙の号数やフィルター」の選択でモノクロフィルムならばコントラストを、カラーフィルムならば色味を調整することができた。

ただ、自分のようにデジタルから入った人は写真屋さんにフィルムを預けて写真プリントが出来上がるまでの間に行われていたことなど知る由もありません。

RAW現像がある種の「ズル」であるという考え方は、写真の歴史を振り返れば間違っていて、基本的には「フィルム時代にも撮影してから紙焼きの写真になるまでの間に色々できたが、素人が簡単にはできなかっただけ」というのが正しい認識と言えるのではないでしょうか。多くの人が言う「RAW現像はズル」というのは、ただ「知らないだけ」かもしれません。

上記のような考え方に対する「反証」としては、プロの現場では後から補正できないリバーサルフィルムを主に使っていた、というのが1つ考えられます。

でも、実際のところはプロの現場でリバーサルフィルムが使われていたのは「効率化」のためなのではないでしょうか。例えば、スタジオで撮ることが決まっていて照明をきっちりコントロールして露出を測って決まった色が出るなら、あとからトライアンドエラーで補正するよりは最初からフィルムも含めて決め打ちで撮って期待通りの仕上がりになる方が圧倒的に効率的に品質を維持できます。

マチュアにもリバーサルフィルムが流行った時期があるといいます。今で言うところの「インスタ映え」しそうな目の覚めるような色を求めて、露出計できっちり測って写真を撮る。でも、露出をシビアに測っても、結局は「フィルムによって生み出される派手な色」が欲しいがために必要に迫られてやっていた、とも言えます。リバーサルフィルムを使い、わざわざ露出計を用意して撮影する楽しさは想像に難くありませんが、露出計という別出しの機械を使って露出を測ることは果たして「撮影者の技術」でしょうか?

モグラフィーやオールドレンズの流行などにあるように、後処理に頼らず写真の表現を作り出す楽しみは、今も昔も変わりません。新たな表現を発明することのクリエイティビティは揺るぎませんが、多くの人は他人が発明した方法を再現して楽しみます。自分が発明したオリジナルの表現技法ではなくても、自分が選んだ被写体との組み合わせで出来るのは「自分オリジナルの写真」であり、それは非常に楽しいものです。

もう一方で、デジタルでしか出来ない画像処理や組み合わせというのはたくさんあります。いわゆる「合成」やそれに近い処理ですね。

豊洲ぐるり公園からのお台場レインボー花火2017

どこまで許すか、というのは個々人の価値観によってかなり異なるように思います。画像処理によって写真が破綻するかそうでないかは、画像処理を行う人の「技術」との関係もあります。似たようなことをやっていても、うまくバランスが取れているから騙されているだけ、というのもきっとたくさんあって、合成を合成ではないと「騙している」ことも批判の対象になりえる。

ただ、「合成」を隠す、といった行為は技術そのものの問題ではなく、技術の使い方やモラルの問題であり、RAW現像という行為全体が否定されるものではないでしょう。

RAW現像に否定的なあなたは、ここまで読んできて、撮影前の機材や技術の選択と、撮影後の後処理とで、何からの優劣が発生しうると言い切れるでしょうか?「RAW現像は良いが合成はダメ」という価値観は、一定の支持を得ていますが、その点についてはどう思うでしょうか?

言いたいことは「RAW現像は楽しいので、決めつけでやらないのはもったいないよ」ということなのですが、伝わりますかねぇ。